この星降る夜に、夢を。



2.

 ロジェに相談をしてから数日後、朗報と言ってしまってもいいものか悩みながら、あたしは彼からの報告を受けた。彼は相談した後すぐ、シャルルにどうしたら受け取ってくれるのか聞きに行ってくれていたらしく、ようやく答えがもらえたということに彼自身が一番喜んでいた。
「だから、シャルルは、形のないもの、においのないもの、眼に見えないものだったら、バンザイして受け取ってくれるって!」
 全く予想していなかった答えに、思わずキョトンとした顔になってしまう。
 ……ねえ、チョコレートはどこに行ったの? 日本式バレンタインデーは全否定??
「何それ、ナゾナゾ?」
 ますます混乱するあたしを見て取ったのか、ロジェは立ち上がり、ソワソワと落ち着きなく部屋を行ったり来たりしながら、手振りを交えて、こう力説した。
「形のないもの、においのないもの、眼に見えないものって結構あるよね。でも、その中でも、シャルルが喜ぶものがひとつだけある。きっと心の底から欲しいと思っているものだよ。じゃなかったらもっと具体的に言うと思うから。で、それは……何か分かる?」
「くうき?」
 まだ頭の回転が追い付いていないあたしがそう言うと、ロジェは「謎々じゃない!」と、大きな声で否定した……。ううっ。だって、謎々じゃないなら、なんなのよぉっ。
「愛でしょ!!」
 得意気に言って、ロジェは胸を張った。
 ロジェの艶やかな髪がひと房額に流れ落ち、整った顔立ちに華やかさを添える。そうすると、彼は本当にフランス人なのだなと思い至る。驚くほど上手に日本語を話しているからといっても、考え方も外見も、日本人じゃないのだ。あたしはついうっかり、そのことを忘れてしまいそうになるけれど。
「マリナ、誰だって、好きだと言われたら嬉しいものだよ。“愛”なら、形はない、においもしない、眼にも見えない! ――ね、条件は満たしてるでしょ!?」
 瞳がいつになくキラキラ輝いている。相変わらずの興奮具合に気圧されながら、あたしは何となく嫌な予感がして、恐る恐るその疑惑を口に出してみた。本音を言うと、これ以上シャルルが意固地になるような事態は避けたいのだ。
「ひょっとして、それ、シャルルにも言った?」
 まさか、そんな。いくらロジェでも、そんな……。
「うん、言ったよ。物凄く冷たい眼で睨まれたけど。でもさぁ、それくらいで怒るってことは、そんなに間違ってないんじゃないかなって思うんだ。“愛”に似ている、もしくは“愛”に近い、形がなくて、においがしなくて、眼に見えないもの。君にならきっと見つけられるはずだよ」
 ロジェが、眼を細めて優しく笑う。それは今までで一番、暖かな笑みだった。
 ……やっぱり、チョコレートは渡したらダメかしら? あれもあたしの気持ちなんだけど……。




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