2.
――ゾクリとした。
それは自分が最もよく知っている状態のようで。
眼も口も腕も動くことなく、その体の温もりすらも感じられない。
もう、永遠に。
動くことが出来ずに佇んでいると、もぞっと、それが動いた。
「――あれ、シャルル??」
半分寝ぼけたような声色でキョロキョロと辺りを見渡す。いつの間に寝ちゃったんだろう、などと独り言を呟きながら髪をくしゃりと撫でる。緩慢な動作で。
「あ、そうだ。シャルル、お帰りなさい」
さっきまでピクリともしなかった彼女が、満面の笑みでそんなことを言う。
そうして満足したのか、彼女は立ち上がり、膝掛けを体に巻きつけながら私の元へとやってきた。何故か、首を傾げて不思議そうな顔をする。
「シャルル? どうかしたの??」
「触るなっ」
反射的に、伸ばされた手を振り払った。
彼女は驚いた顔をしていたが、構わなかった。
「寝るんなら自分のところで寝ろ。ここは君の部屋じゃない!」
彼女の話す言葉など一切聞きたくなくて、背を向けた。
息苦しくてタイを解く。シュルッと音を立てて体から離れて行くそれを、忌々しく思いながらソファの背に放り投げる。何でもいいから当たり散らしたかった。彼女もそれを感じ取ったのか、慌てた様子で喋り始めた。
「あ、あのねっ、あたし、あんたにおやすみって言おうと思って待ってたのよ。じゃあねっ、おやすみっ!!」
言い終えると早々に退室していった。
その際に、ドアの開け方を思い切り間違って体当たりしたことや、壊れそうなほど大きな音を立てて閉めたことなどについては、見なかったふり、聞かなかったふりをした。これ以上ストレスを増やしたくなどない。うんざりする。
嫌なのだ、もう。
もう何も見たくないし、聞きたくもないのだ。
なのに、彼女が来てからというものの、知りたくないことばかりが次々と起こる。
――ああ、今夜はきっと悪夢を見るだろう。
馬鹿だバカだとは、思っていた。
けれど、正直、ここまで愚かだとは思ってもみなかったのだ。
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