優等生と不良



「――まず、筋肉は、その構造やはたらきによって3種類に分けられる。骨格筋、平滑筋、心筋だ。それぞれ、どんな筋肉か説明せよ」
「骨格筋は簡単よ。あたし達が普段言っている筋肉っていうのが、この骨格筋でしょ。それで、心筋っていうのが、心臓の為だけの筋肉よね。で、平滑筋は……えーっと……」
「消化器等の壁の筋肉」
 マリナが必死になって思い出そうとしていると、隣の席の薫先生が、音楽教師らしい、よく通る声をいかんなく発揮してそう答えた。ショックを受けたマリナが横を向くと、薫先生が胸と顎を突き出しているところだった。
 学校という場所の性質上、授業中はそれまでとは違って、途端に静かになる。職員室は確実に人口が減り、物静かになった一角で、マリナが無理矢理頼み込んで、ミシェル先生に問題を出してもらっていた。彼は、問題内容とは関係のない数学教師なのだが。
「どーして、薫先生が答えるんですっ!? あたしが問題出してもらってるのに!」
「簡単な問題なのに、答えられないマリナ先生が悪い」
「――はい、次の問題。骨格筋、心筋にあって、平滑筋にないものはなんだ?」
「横紋だろ」
 ミシェル先生の横の席にいる和矢先生に、期末テストの相談に来ていた美女丸先生が答えた。和矢先生も頷いている。現代文と古典の教師とは思えない程のスピード回答だった。
「だからっ、なんで、美女丸先生が答えるんですかっ!?」
「――はい、じゃあ、次」
 マリナの言葉をことごとく無視して、ミシェル先生は次々と問題を出して行こうとした。が、それは、問題に答えられないマリナによって中断された。
「何だよ。答えられない君が悪いんだろ、人のせいにするな。……はあ? そんなことまで習ってない? だったら、放課後、シャルルとふたりっきりで一体何を習ってるっていうんだい、マリナ先生?」
 いささか理不尽なマリナの文句に、ミシェル先生がニッコリと笑って返した。
「……あたしは、筋肉の構造とか部位の名前とか、そんなことを習ってるんですっ! ふたりっきりだからって別に」
「では、膝から下にある筋肉を全て答えろ」
 無表情に戻ったミシェル先生が再び唐突に質問をすると、マリナはあたふたして頭が真っ白になった。すると、マリナの次の行動パターンとして、開き直りというのがある。マリナが開き直れば、ミシェル先生から当然のように罵声が飛び、その声を遮るように、どうしたらいいのかわからなくなったマリナが「もうグレてやる〜」と叫んだ。
 騒がしくなった職員室で、ルパート教頭はコツコツと机を叩いた。果して、彼等は何のテストをやっているのだろうかと……。取りあえず彼は、騒ぎの中心にいる、マリナを呼び出した。






back  next



inserted by FC2 system