姫(王子)と騎士



 お后様は魔法の鏡に尋ねました。
「鏡よ、鏡、マリナさんが“白雪姫”なの!?」
 ――そうです。最初からそう言ってるではありませんか、お后様。姿だって見せて差し上げたでしょう?――
 そう言って、魔法の鏡は最初に映し出した“白雪姫”の姿をもう一度、その鏡に映し出しました。お后様が“白雪姫”だと思っていた女の子の姿に隠れて、確かに、マリナが映っています。魔法の鏡は、ふたりはいつも一緒にいるので、自然にふたりで映る確率が高いのだと、そんなことを言いました。そして、ほら、とお后様に皆の方を向かせたのです。
 向けられたお后様の目線の先には、“白雪姫”と仲良く言い争う王子様の姿がありました。

「そうそう、あの時、足止めしようとして罠を仕掛けていたんだが、掛かった時に君が置いて行った靴がとってあるよ」
「なくしたと思ったら、王子の仕業だったのね!? ちょっと、返してよっ」
「いいけど。これが君のものだという証拠があると助かるな。あぁ、そういえば、私はまだ君からひと言もお礼の言葉をもらっていなかったな」
 王子様がにっこりと微笑んで“白雪姫”を苛立たせていたので、“白雪姫”は周囲のザワついた雰囲気にはまったく気付いていませんでした。そして、自分が入れられていたという棺から、王子様が持っているものと同じ靴を取り出してみせたのです。
「これは祖母からもらった大事なものなの、わざわざ取って置いてくれてありがとう。早く返してっ」
「確かに、同一のデザインのようだ。では、今日から私があなたをお守り致します。――どうぞ、“白雪姫”」
 そう言って王子様は片膝をつき、“白雪姫”に靴を履かせました。
「あ、ありがと……マリナでいいわよ。それよりも、なんか、今、さらっと告白みたいなことが聞こえたと思ったけれど、気のせいよね?」
「いや、告白みたいなことではなく、プロポーズだ、マリナ」
 “白雪姫”ばかりか周囲にいた小人達も眼を丸くさせ、王子様は“白雪姫”の手を取ってなおも言葉を続けました。その小さな手にそっと唇を寄せて。
「今日から私だけの姫になって下さい」


 ――ほら、“白雪姫”は王子を射止められたではありませんか――
 魔法の鏡は、驚くお后様にそう囁きました。





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