シンデレラと王子様



 ある日、マリナは街へ出てお仕事をしておりました。けれど、マリナに任せられる仕事といえば、誰もやりたがらないような仕事ばかり。マリナの服はあっという間に真っ黒になってしまいました。
 噴水の縁に座ってマリナが休憩していると、突然一陣の強い風が吹き、マリナが膝に敷いていたハンカチが飛ばされ、ふんわりと水の中へ落ちてしまいました。虚しく思い見つめていると、バシャンと大きな音を立てて誰かが噴水の中へ入って行くのが見えました。
「今度からは飛ばされないように石でも乗っけてパンを食べるんだな」
 礼を言って顔を上げると、なんと、その人はシャルル王子でした。マリナは少々慌てましたが、王子様は一向にマリナに気付かないまま、濡れたハンカチをマリナの手に乗せて立ち去ってしまいました。
「くっ! あんなに仲良くなったのに、服装が変わっただけであたしだと気付かずに行ってしまうなんて、なんて王子様よ!!」


 後日、お城でパーティーが開催されると聞いたマリナは、皆が止めるのをよそに、森の鳥達が持って来てくれた綺麗なドレスを着、ガラスの靴を履いてお城へ出掛けました。マリナは、今度は綺麗な服で王子様に会い、どんな反応をするのか見てみようと思ったのです。
「王子様、私が誰か、おわかりになりますか?」
「いいや。君が誰であろうと、興味はないね」
「私は、あなたが服装に興味がないことがわかりました」
 そう言い残して、皆と約束した12時にマリナは森に帰って行きました。王子様はまた例の発作状態になってしまいましたが、やっぱり誰もその理由はわかりませんでした。
 翌日もパーティーが開かれたので、マリナは昨日と同じようにお城に行き、王子に同じ質問をしました。
「王子様、私が誰か、思い出せましたか?」
「いいや。そう言って言い寄ってくる女の数くらいしか思い出せないな」
「私は、あなたが人間に興味がないのだということがわかりました」
「……君の名前は?」
「灰かぶりですわ、王子様」
 マリナは悲しくて悲しくて、悔しくて、泣きながらお城の階段を駆け下りました。街で汚れた格好をしていても助けてくれたことがうれしかったのに、王子様は目の前にいる人間がどんな人物であるのか、見てもいなかったのです。マリナにはそれがどんなことより悲しく思えました。
 マリナは途中で靴が片方脱げたことにも気付かぬほど、悲しんでいました。




back  next



inserted by FC2 system