この星降る夜に、願いを。




 今なら、彼の言葉を聞くことが出来るかもしれない。




1. 終わりの涙、始まりの涙。


 ――会いに行ってみようか――


 ふとした瞬間に湧いた言葉を、あたしは小骨を飲み込むようにして心の奥に仕舞った。またどこかで誰かが泣いている気がしたけれど、それも一緒に仕舞い込む。すると、その様子をずっと見ていたのか、隣にいた和矢から心配そうな声が上がって、目の前に彼の眩しい笑顔が降ってきた。
「どうした? 急に笑ったかと思ったら、辛そうな顔して。腹でも減って、昼飯のことでも考えてたのか?」
 その、いかにも失礼な和矢の言葉に、何故かあたしは戸惑ってしまった。覚えのない感情が内に広がっていることに気付かなかったあたしは、和矢にいつもの笑みを作ってみせた。
「ううん、なんでもない。大丈夫よ」
 あたしは幸せだった。
 和矢の傍にいることが出来て。
 彼の愛を、あたたかさを、この身に受けることが出来て。
 和矢がたまらなく好きだった。他の、どんな人よりも。
 でも、彼は、あたしがそう言うと急に顔を曇らせた。何か悪いことでも言ったのか、したのではないかと、あたしは自分の言動をかえりみたのだが、思い当たらない。あたしがひとりでオロオロしていると、和矢はふうっと切なそうに笑って、そんなあたしの頭の上にポンと大きな手を乗せた。
「無理すんなよ」
 それがどんな意味を含んでいたのか、後になって知ったあたしは、涙せずにいられなかった。彼のために、声を上げて泣いた。身を引き裂かれるような思いだった。彼はもう、あたしの一部だったから。どんな時でも優しくて、優しくて、あたしをあたたかく包み込んでくれるように愛してくれた人。それはあたしにとって、とても大切なものだったのに……。

 恋を教えてくれたのは、彼。
 恋することを教えてくれたのは、彼。

 ――けれど、恋の終わりを教えてくれたのも、彼だった。

 彼は代わりに、あたしの中に芽ばえ始めていた感情を気付かせてくれた。

 その時の彼の気持ちを考えると、情けなくて、辛くて、悲しくて、自分の感情が分からなくなる程泣き崩れた。けれど、和矢はそんなあたしを抱きしめ、友達として、傷を癒すようにそっとなだめてくれたのだった。


 それは、今でもとても哀しい出来事。





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