好きだと言った君。
月夜の中で、夜の闇を映した黒い瞳が潤んで見えたのは幻のようで、息をすることも忘れて君を見つめた。今、自分がどんな顔をしているのか分からなくて、片手を上げて表情を確かめた。君には、それが隠したように見えたかもしれない。それでいい。
「はっ!」
この数年間の君を、オレは知らない。君達を知らない。
この数年間のオレを、君も知らないだろう。
なのに、君はオレのことを好きだという。このオレを好きだという。
おかしくて笑みがこぼれる。
数年も前の出来事を、またもう一度やれというのだろうか。残念ながら、あの頃のような恋心をもう持ち合わせてはいない。あるのは、エゴイストな愛情だけ。君は知る由もないだろう。君は眼を見開き、笑うオレを見ている。
“友達”としてなら、君の居場所を考えてあげられたのに。時を誤ったね。
オレはこの数年間、色んな女を愛したよ。
愛していると言われれば愛したし、抱いて欲しいと言われれば抱きもした。
君にもしたことのないキスもした。
そんなオレを、君は愛することが出来るというのだろうか。無理だろう。
カズヤ、おまえは試すといいと言ったけれど、それはあの時と同じ結果をもたらすだけではないだろうか。それでも試せというおまえは悪魔のようだ。マリナは心得ているというけれど、今、目の前にいるマリナは全く何も分かっていないように見える。
――覚悟しよう。
これはこの数年間の自分をかけて挑む試練だ。
「オレを好きだというのなら、オレに恋心を抱かせてみろよ」
出来ないのならば、この先何十年も続くこの感情の息の根を止めて、錠をおろし、葬らせて欲しい。もう二度と芽吹くことがないように。
――――さあ、覚悟をするんだ。
「オレは君が好きじゃないんだから」
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