――友達以上の存在になりたくて、その腕の中から離れた。




この星降る夜に、願いを。 番外編1



 ずっとずっと好きになりたかった。
 好きになりたかった時に好きになれず、好きになった時には、彼はもう目の前にはいなかった。
 もう遅いとも思ったけれど、何もせず、何も伝えずに終止符を打つなんて、こんな虚しいことはない。だから、あたしが行けばいいと思った。彼の前に立つまでに、随分時間がかかってしまったけれど。

「行けよ」
 最初にそう言ったのは和矢だった。
「……でも、あたし、どうしたらいいかわからないの」
 そうつぶやいたら急に視界がぼやけた。何がこんなにも悲しいのか、何がこんなにも苦しいのか、不安定に揺れる心の着地点を、私は見つけられずにいた。
 心の中に彼がいたとしても、和矢と離れることは体の半分を失うのと同じことだった。和矢と、離れたくなかった。でも、彼のところへと向かう気持ちを止めることも、出来そうにない。そこからあふれ出た言葉だった。
「あいつのところに行って、会って話してくるといい。シャルルのことだから、忙しいとか言って逃げるかもしれないけど、マリナ、お前ならきっと大丈夫だ」
 切ないほど真っ直ぐな眼差しで見つめてくる漆黒の瞳は、失うものなど何もないという強い輝きを放っていた。
「あいつが何と言おうが、負けちゃダメだぜ。これはおまえへの試練だ。もし本気でシャルルのことを想っているんだったら、おまえはこれに耐えなければいけない。証明しに行ってこい。オレのことは考えるな。おまえは、お前の幸せのことだけを考えろ」
 たまらなくなって抱きついたあたしの背中を優しく撫で続けながら、和矢は、あたしが落ち着くまでそこにいてくれた。和矢を幸せにしてあげられる相手があたしではないことを悲しく思いながら、あたしはその優しさに甘えていた。

 たとえ遠く離れていたって、彼と連絡が取れない訳じゃない。想いとそれが届くまでのタイム・ラグさえ、問題視しなければ。日本にいても決して不可能ではないのだ。でも、その前に、自分の気持ちだけは、彼の前で伝えたかった。

 今なら、ちゃんと言えることが出来る。
 シャルルのことが好きなのだということを……。




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