うっすらと眼を開ける。ピントが合わない視界。
頭の下は、何故だか暖かな感触。体全体が何かに包まれている。よく知っている香り。彼女はそのことに特別に疑問を抱かず、妙に安心していた。
もう一度眼を閉じて、再びゆっくりと開けると、雲の合間から薄い空の色が覗いていた。そこに、届きそうで届かない背の高い木々も映る。そして視線を落とすと、すぐ傍に、先程まではなかった人の姿があるのに驚いた。
彼女はまだぼんやりした頭で、その相手をじっと見つめた。
手にしている紙の束に目線を落としていて、瞳の色が濃い。けれど、厳しさの中に穏やかな表情が入り交じっていることに、彼女は気付いた。
――シャルル?
彼女はそう呼びかけようとして、思わず息を呑んだ。
それは、わずかな晴れ間から一瞬、光りが射して彼を白く縁取って彩り、まばゆく輝き出したからだった。
光りは彼の白金の髪に降り注ぎ、ひとつとなって溶け込ませると、頬杖を突いて斜めになった頬に沿って光りの筋をつくり、かすかに垣間見える首筋へと落ちていく。
エメラルドに輝く緑を背景にしてのその光景は優美で、その繊細さは神秘的と言ってもいいぐらいであった。
そんな彼はただ羽がない天使のようにも見えたが、彼は間違いなく人間で、自分の大切な人であることを彼女は知っていたので、起こしかけた頭を彼の膝の上に戻した。
そして、出ていた脚を引っ込めて彼のコートの中に入れた。そうすれば、全身が彼の香りに包まれる気がしたのだ。寝返りを打った彼女は再び眼を閉じて、彼の膝に猫のように頬を擦り付けた。そうして彼に気付かれないように、嬉しそうに口元を歪めたのである。
天使ではないけれど天使のように美しい彼が、自分に膝を貸して憩わせてくれている。
――それはまるで、夢のような時間。
その間中、彼女は彼の元で眠りにつきながら、優しく幸せな夢を見た。
その真昼の夢は、彼の香りがしたという。
<end>
BGM:
How Crazy Are You?/Meja
Lovin' You/Janet Kay
La Vie En Rose/Patricia Kaas
Present for 『夢のつづき…』 マーガレット
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