――最近、不愉快な噂が耳に入る。
「聞いた? あの話。マリナ様が…」
「もちろんっ、聞いたわよ。……でも、私も一度ふたりをお見かけしたけれど、とてもお似合いだったわ」
答えて、彼女は声音を落として少しばかり俯きながら言う。
「やだっ、マリナ様があちらに行かれたら、どうしよう!?」
「そりゃあ決まってるでしょ。私達は毎日恨みながら過ごすのよ!」
ショートヘアの女が、彼女達を斜めに見回しながらモップを持つ手に力を込めた。
「……一体、誰を恨みながら過ごすのよ」
マリナが去っていくことを恐れる彼女達の眼を一身に集めると、女は体を前に倒して、彼女達だけに聞こえるような声で囁く。
「勿論、こうなる前に早くマリナ様を押し倒してしまわなかった、シャルル様を、よ」
冗談とも、本気ともつかない声で。
――まったく、忌々しい。
追い詰められた猫と噛まれそうになった鼠
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