――朝。暗闇一色だった世界に、明かりが灯る。
オレは彼女の無意識で起こされる。
彼女が眠っている間に行う“様々な言動”によって眼が覚めるのだ。
たとえば……今日は、ナイトテーブルに置いてあった本をバサバサと大きな音をたてて床に落とされた。もちろん、オレの彼女はこんなことでは簡単に眼を覚ましてはくれない。
何事かと思ったけれど、本が落ちただけだと確認すると、オレは再び枕に突っ伏した。
決して寝起きが悪い訳ではないが、朝からなんとも力が抜ける出来事であることは確かだろう。見よ、このオレと彼女の較差。あんまり大きな音だったから慌てて飛び起きたのに、本が落ちただけだったもんな。ああ、オレも彼女のように鈍感だったらよかった。
でも、まあ、仕様がないか。
クスリと笑みがもれる。
それが、彼女だ。
これがまた可愛いと思えるのだから、どうしようもない。
でも、彼女が起きたら怒ったふりをしておこう。その方が、おもしろいから。
眼鏡を外した彼女の本当の素顔が、薄い朝日の中に浮かんでいる。こんな姿を無防備に見せてくれるのは、オレが彼女の恋人だからだと思うと、胸が震える。
やわらかそうな頬をぷにっと指で押してみる。
何の反応もないのに、たったそれだけで幸せな気持ちになれるのは、彼女が幸せそのものだからじゃないかと、最近思う。
だから、皆、彼女に惹かれるのだろう。
だから、皆、彼女の笑顔を求めるのだろう。
――オレは、幸せ者だ。
彼女を独り占めすることが出来る。
やわらかな朝日が差し込む部屋で、オレはそっと幸せを抱きしめた。
幾度となく抱きしめた彼女の感覚が、体中から伝わってくる。
やわらかくてあたたかなその感覚を、今度はギュッと胸の中に閉じ込めた。
彼女は眠っていたけれど、喜びが少しでも伝わればいいと思った。夢の中にさえ分け入って、この気持ちが届けばいい。
そうして眼が覚めてはじめて見るのがオレだということに、笑みで答えて欲しい。そうしたら、キスを贈ろう。この幸せが続くように。
オレはそっと彼女の睫毛に触れ、そのまま半円を描いて、睫毛をなぞった。
早くこのベールを上げて、オレだけを見、微笑んで欲しい。そう思った。
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