涼しい風が頬を撫でる。乾いた土のにおいと、あたたかな夕餉のにおいがする。
時はもう夕暮れで、真っ赤な太陽が地面や壁といったあらゆるものを染め上げて沈んでいこうとしているところだ。
カミルスは腕を上げて、まぶしさに眼を細める。
「カミルスー、帰りましょー」
遠くから腕を目一杯振って、黒いシルエットのマリナが叫んでいた。
「でね、今日のお昼はちょっと豪華だったのよ!」
彼女の声はそのまま彼女の気分を表し、弾む声色に笑みがにじむ。
彼女の話を半分くらいしか聞いていなくても、この彼女の感情は手に取るようにわかりやすい。それが心地良いのだと言ったら、君は怒るだろうか。
君が楽しそうに話していたらつられたように楽しくなるし、君が悲しそうにしていたら悲しみが染み込むように周りまでがすっかり気分を変えてしまう。君にはそんな力がある。
だから皆が君の傍に集まってくるのだろう。
君の傍にいるとあたたかいから。
紅く染まる世界の中で、ふたりだけの時間を過ごしている幸福感は、オレだけのものだろうか。
出来れば君も、同じ気持ちでいてくれていたらうれしい。
そうして、たまにはやっぱり、こうして隣に立って並んで歩いて帰りたい。
ふざけてからかってみたり、笑い合いながら帰る路を、いつまでも留めておきたい。一刻でも長く。君との時間を。
理由を聞かれたら、そう答えよう。
だから君と同じ歩幅で歩くのだと、だから君の隣に立つのだと。
だからマリナ、理由を尋ねてくれ。
そうしたら教えてあげる。
君の耳にそっと……。
「なんて言ったら、本気にする?」
「あたしをからかって、遊ぶんじゃないっ!!」
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