SS 02



「ロマン、間違っている。やり直せ」
「……シャルル、どこが間違っているか言ってくれ。でないと、時間の無駄遣いになってしまうじゃないか」
 言えば、シャルルはその白金の髪の間から、ブルーグレーの透明な色で刺し殺さんばかりの目線をくれ、口を開いた。
「自分でわからないなら、始めからやり直せ。その時間を無駄だというなら、今こうして君に話している時間も無駄な時間だ。私は君ほど暇じゃない」
 まったく、仲良くしてやっている僕が嫌になるほど自己中心なんだから。
 とはいえ、彼は確かに人の何倍もの仕事をこなしているし、絶対に無理難題を押し付けたりはしない。ただ、人使いが荒い。それをわかっているから、少しでも彼の口からフォローのひとつも聞きたいものだと吹っ掛けてみるものの、相手はなかなか手強いので、その言葉は幻に近い。
「出来たよ、シャルル。僕の能力を買ってくれているのはうれしいけど、たまにはお礼のひと言も聞きたいなーと思ってもいる。シャルル、どう、言う気はない?」
「聞かせて欲しいのなら、その能力をフルに使ってもっと仕事をしてみるか?」
 はあ、彼は仕事の鬼だな。彼の頭の中には、自分の研究以外のことは頭にないんじゃないだろうか。
「遠慮しておくよ。この後、彼女とデートなんだ」
 シャルルはふっと笑うと、再び書類に目を落とす。左右にゆっくり眼を動かして確認すると、その書類を脇に除けて言った。
「行っていいぞ」
 ホント、横暴もいいところだ。
「シャルル、君に敵わない奴なんていないよ」
「それは誉め言葉か?」
「まあね」
「だったら、残念だな。私にも敵わない相手がいる」
 初耳だ。興味をかき立てられてシャルルを見ると、彼はおかしそうに口元に手を当てて笑って僕を見ていた。
 何がおかしいんだ?
「それじゃあ、君も悔しい思いをしているってわけだ」
「ああ、本人は無自覚だけれどね」
「それは残念だ」
 彼にこんな思いをさせていると知っていたら、そいつはかなり自慢に思っていいのに。
「無駄口叩いている間に勤務時間は終わってしまったぞ、ロマン」
「おっと。それでは所長、お先に失礼します」
 こんなに横柄で、自己中心的で、完璧主義なシャルルに敵わないと思わせる相手を悔しく思いつつ、僕は彼に礼をした。
 彼の敵わない相手って、一体どんな奴だろうと思いながら。





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