木陰のどこかで小鳥がさえずっている。
それは、木々の間かもしれないし、どこかもっと遠い場所からのような感じもする。
様々な場所から、色んな鳥達が思い思いにさえずって、とても賑やかだった。
ようやく訪れた春を胸に、喜びに溢れて、ここでは一気に春が芽吹く。鳥も人も、昆虫も、皆、春が好きなんだろう。体の中心から、閉じ込めておいた感情を解き放つように、眠りから覚めた時のように、外に向かって気持ちが溢れ出している。
日差しが強くなってくると、ここぞとばかりに日光浴をする人々で公園が賑わう。
長い冬の間に溜まってしまった鬱々とした気分を陽の光の中にさらして飛ばしているその様子はまるで、梅雨の後に洗濯物を干す、晴れ晴れとした感じに似ていた。
街路を歩けば、リラの花房が空色に向かって咲き誇っている。ふんわりと漂う香りが、足を軽くする。花の都だと謳われる季節は、本当に最高だ。色も大きさも様々な花達が競うように一斉に咲き誇る。花に惑わされつつ慣れた道を進めば、やがて閑静な住宅街に辿り着く。
やわらかな草木に誘われてそのまま庭に出ると、花壇も花盛りだった。
庭師の技に感嘆しながら、そのままいつものお気に入りのベンチに腰掛ける。
公園とは違い、とても静かだ。
所有地であるが故に出来る贅沢に物足りなさを感じるなら、それこそ非難の声が飛んでくるだろう。次第に、動かしていた手が止まり、鳥達の歌を耳にしながら微睡みの中へ沈んでいく。そのことに幸福を見出せるのは、目が覚める時にひとかけらの不安や恐怖がないから、或いは、今がとても幸せだから……だろうか。
よく知っている優しい指が、意図を持って前髪に触れてくる。
「ただいま」
くすぐったくなる気持ちに唇が動いても、気付かないふりをして、指先はゆっくりと髪を梳く。たったそれだけで、胸の中の蕾がどれだけ花を咲かせるのか、彼は想像もしてないに違いない。今はただ静かに咲いているけれど、時々、ポンと音が鳴ることなんて、知っていてわざとやっているのだとしたら、とても悔しい。
触れられている髪や頬を撫でる同じ風が、白金色の髪を撫でて舞わせている。そのやわらかい風が青灰色の眼を細めさせているのを良い方に解釈して、微睡む。彼の優しさが、とても心地よかった。
そうしてそっと瞼を開ければ、想像していたよりもずっと輝いている微笑みに出逢える。
「誕生日おめでとう」
甘い甘いリラの香りが漂い、ふんわりと微笑む彼の美しさと重なる。
白いマーガレットの海が、風に凪いで揺れた。
私は、差し出された花を受け取って、そこにある幸せの中に顔を埋めた。
<end>
Present for マーガレット
|