きほんてきにマイペースです



 マリナは彼ほどマイペースな人間を見たことがない。
 理由は多々あれど、初対面の時からそうだったことですでに免疫が出来てしまったのか、それとも特別な感情によるものなのか、今日ではすっかり慣れてしまっていた。
「シャルル、休憩時間の時、外で一緒にお茶しない!?」
「遠慮しておく」
「あ、だったら公園で……」
「私は忙しい」
「……今日はいい天気よね」
「そうだな」
 取り付く島がないなと思いながら、ガックリと肩を落とすマリナに、彼の部下達は優しかった。休憩室で溜息をつくマリナにお菓子をくれる。言葉は理解できなくても、表情やジェスチャーでコミュニケーションをとることは出来るのだ。
「今日って、そんなに忙しいの?」
「まあ、彼は所長だからね。色々あると思うけど、いつもと変わらないんじゃないかな? あ、オレのも食べていいよ」
 それに、わずかながら日本語が堪能な人もいるので、マリナひとりでもそんなに困ることはなかった。あまりにも正直過ぎて傷が深くなることもあるけれど、相手にされないよりもマシだと、マリナは心ひそかに思っている。
「うっ、ありがとう。あんたって優しいのね」
「なんだ、今頃気付いたの?」
 そうやってふたりで笑い合っているところに、突然シャルルがやって来て、ビックリする周囲をよそに、彼はつかつかとマリナの前までやって来て尋ねた。
「シャンパンは飲みたいか?」
「タダならっ!」
 即答したマリナは、答えてから何ともいえない顔をしたが、シャルルは構わずにブツブツと考え事をしているマリナの腕を取って、ドアへと向かう。
「よし、じゃあ、行くぞ。今日だけはたらふく飲んでもいい」
「えっ、ホント!?」
「ああ。だから、捜査に協力しろ」
 現場に行き、解剖に付き合い、パーティーで情報収集をさせられることになろうとは、この時のマリナはまだ何も知らずに、彼のペースに引きずられながら笑みを浮かべていた。





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