おこらせるとおもわぬはんげきをうけます



 真心をこめて作ったものをひと目見て、「甘いものは嫌いだ」と言って受け取ってもくれない。
 赤いリボンで飾られた箱は、受け取り手を見つけられずに机の上に置かれた。けれど、マリナは予想していた通りの返答に、ふふんと胸を張って見せた。
「そう言うと思ってたわ。この間のことをまだ怒ってるからって、食べ物に何の罪もないじゃないの、この偏屈男っ。これはここに置いて帰るわ。明日もまた来るから、覚悟しておくのよ! ふんっ」
 一方的に捲し立てて去って行った彼女の後姿を見ることもなく、シャルルは呆れたというように溜息をひとつ落として仕事に戻った。
 それからというものの、マリナは本当に毎日同じ箱を持ってやって来た。彼女が訪れる度にひとつずつ増える箱に、シャルルは少しずつ不機嫌になっていく。
「いい加減に受け取りなさいよ、この頑固者! 受け取らないと、後で絶対後悔するからねっ」
 そう言って怒って帰るマリナも、翌日にはまた必ず箱を持って現れる。同じことが繰り返される毎日に、次第にシャルルの下で働いている者達が興味を持ち始めた。ふたりの間で何があったのか、何故マリナは同じ箱を毎日持ってくるのか。その興味の視線は常に身近にいるシャルルに注がれた。けれど、その視線にも彼は冷たい視線で返すのみで、真相は深まっていくばかりだった。
「シャルル、ちょっといいかな?」
 ところがある日、いつも恐れることなくシャルルに話しかけて行くひとりの人物によって、この謎が解かれる日がやって来た。
「シャルル、君は一体どうしてマリナからの贈り物を開いて見もしないんだ?」
「君には関係ないだろう」
 不機嫌に輪をかけてシャルルが答えると、彼はわざとらしい溜息をついて、彼しか知らないそのプレゼントの秘密を彼に打ち明けた。話し終え、その間中いつもの無表情を貫く彼をひとり置いて部屋から出ると、彼は大袈裟に見えるほど首を左右に振った。「わかってないなぁ」と呟いて。
 しばらく箱をじっと見つめていたシャルルが、おもむろにそのひとつに手を伸ばし、赤いリボンを解いて開いて中を見てみると、そこには彼の言葉通り、チョコレートと、短いけれど精一杯のメッセージが書かれてあるカードが添えられていた。それはずっとシャルルが待っていた、マリナからの謝罪の言葉だった。
 チョコレートをひとつ口の中に放り込むと、苦い味が体中に広がった。



※ 「星降る夜」シリーズのバレンタイン話(遅)として書いてみました。




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