まずはかわいがってきにいってもらいましょう



 不貞腐れてそっぽを向ける女の子がいる。
 背中からは、「不機嫌です」という張り紙が貼られているのではないかと思うほど明確なオーラを放出している。よくもまあ、そこまで怒れるものだという思いが込み上げてきたが、怒らせたのは他でもない自分であり、自分以外の人間が聞いたなら誰でも怒り出しそうだと思い、考え直した。
「マリナ」
 取りあえず名前を呼んでみるが、返事はもちろん反応すらない。
 こういう時の彼女は、まず間違いなく、自分の怒りを己の中で消化すべく格闘中なのだ。その怒りをぶつけてこない代わりに、何ともいえない空気を作り出す。元々日本生まれのこの猫は、初めからこの国の誰とも違う空気を身に纏っていた。その魅力に惹かれてうっかり近付いてみると、理解不能の未知の体験が待っていた、という訳なのである。
 しかし、それすら面白く思う辺り、自分も相当参っているなと思う。
 しばらく放って置けば彼女は自ずとそこから這い上がって来るので、それを待とうと決め、そのままそこに居続けることにした。とはいえ、このまま何もしないというのもいたたまれない。
 ちらっと彼女の様子をうかがうと、まだピリピリした雰囲気を醸し出している。

 ――ポンポン。

 何も言わずにただ頭だけを撫でた。
 彼女はやっぱり何も言わない。けれど、嫌がりもしなかった。

 言葉の代わりに、腕を伸ばした先にあるあたたかい温もりに手を伸ばす。触れる感触に心地よさを感じながら繰り返すその行為にも、彼女はされるがまま。だから、こちらも彼女の頭を撫で続けた。やがて放出されていた不機嫌なオーラは消え去り、いつしか彼女が背中を小さく丸めて大人しく撫でられていたことに、満足して。





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