白い朝



 ほんのりと薄日が差し込む寝室に、白いシ−ツに包まって大きな塊を作っているのは、この部屋の主とその恋人である。休日が重なれば、前日はどちらかの家に泊まって、昼までまったり過ごしたりする。それはいつも時間に追われているふたりにはとても贅沢な時間で、寝惚け眼でウットリと彼を見つめて微笑む彼女は、誰が見ても幸せそのものだ。
「おはよう、シャルル。いい朝ね」
 ここはふわふわのベッドではないし、太陽の光を完全に遮るカーテンもない。シーツや毛布も、決して手触りの良いものではない。おおよそ、彼の趣味ではないだろう。それでも、眼が覚めれば彼がそこにいてくれるというのは、なんとも嬉しいものだ。触れることが出来る幸福に目が眩んでしまいそうになる。
「おはよう、お寝坊さん。今朝はご機嫌だね」
 シャルルが眼にかかっている髪をそっと横に梳いてやると、マリナがくすぐったそうに声を立てた。その無垢な反応はシャルルの胸をくすぐり、彼女を抱き寄せさせる。腕の中の彼女はコロコロ笑って、彼の行動を面白がっていた。
「キュンとした?」
「した。朝からあんまりオレの心を射らないでくれ」
 マリナはシャルルの胸から顔を上げると、寝惚け眼を三日月形にして微笑んだ。
「あたしは目が覚めた時から、ずっとシャルルにときめいているわよ」
 天使から大天使に育ったシャルルの頬を撫でると、彼がすぐそこにいるのだという現実味が増す。暖かな体温は、生きている証し。
 どこにいてもすぐに見つけられる珍しい色を持つ長い髪が、光を浴びてキラキラ輝いている。指を潜らせれば、それだけで彼の髪の艶やかさを感じることが出来た。世の女性が泣いて悔しがる程の手触り。普段ならなかなか触ることはできないが、マリナはシャルルの髪をこうして撫でることが好きだ。触れるたびに、触れられることが出来る距離、触れることが許される関係に感謝している。
「綺麗な髪よねぇ。とっても撫で心地がいい。つるっつるで、なめらかで、ずっと触っていたい」
 繰り返し髪を梳く優しい手付きに、シャルルの元に落ち着きと安らぎがとろりと広がる。
「それは、普通なら男が女に対して思うものなんだけどね」
「あたし達、普通じゃないもの」
「ああ、それなら同意しよう」
 額を合わせて、悪戯を成功させた子供のようにクスクスと笑い合う。
 こんなくだらないことで笑い合える、それだけでマリナは幸せだった。胸の奥からあたたかな気持ちが風のように吹き、心に春を呼ぶ。閉じていた目蓋をゆっくり開けると、小鳥のさえずりの余韻を残して、くすぐったい気持ちが唇を上へと押し上げた。見れば、シャルルも同じようにして微笑んでいる。彼が何も言わなくても、何を言いたいのか、マリナには分っている。きっとふたりは、同じことを考えている。
「シャルル、あたし、眠たくなってきた」
「いいよ、もうひと眠りしよう。デートは、夢の後で。出来れば、夢の中でも」
 この上なく優しい微笑をするシャルルの目蓋に、マリナはキスをひとつ落とした。
「もちろん、夢の中でも一緒よ、愛しき人」


BGM:
Lovin’ You/Janet Kay




ただひたすらイチャイチャしているこの話を公開するのにベストな日は、
HP10周年記念日だなと思いましてUPしました。
皆様に少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

BGMは、ジャネット・ケイ版の「Lovin’ You」です。
ミニー・リパートン(Minnie Riperton)のオリジナルも
いいので是非聞いてみてください。
このお話が、少しだけ色っぽくなります(多分…)。


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